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吼える月
第16章 船上 ~第2部 青龍の章~
「神獣の力が必要がない"契約"なら、また姫様が一方的に破棄してしまいます。俺が欲しいのは、姫様すら破棄出来ない"絆"です」
「根に持ってるのなら謝るわ。護衛役を戻してこの先破棄しないから、だから"忠誠の儀"は思い止まって。この先、サクが武神将として命捧げるのに相応しい祠官が現われるかもしれない」
「出たところで同じ。俺が仕えたいと思った人物は、昔も今もふたりだけですから。それ以外に仕えるのなら、俺、武神将やりません」
ふたりとは、自分とリュカなのだろう。
「やりませんって……折角玄武にも認められたのに!! 玄武が怒るわ!!」
「俺、別にあいつの下僕じゃねぇですし。俺は俺の譲れねぇ生き方っつーもんがあります。このことは玄武も知ってますよ。……嘆いてますが」
「サク!! だったらハンが悲しむわ!! ようやく息子が後を継いだのに!!」
「俺、親父にも言ってましたし。それに祠官祠官と姫様言いますが、俺に取っちゃ主がどんな身分だろうと構いません。必要なのは、俺が主として認められるかどうかです」
「サク……。武神将なのよ? 誉れ高い、あの武神将になったのよ? 倭陵で名を轟かせられるだけの実力があるのだから、相応しい人と儀式をして? あたしは、現在姫であるのかどうかも怪しい身の上なの。サクにお給金をあげられるかどうかも……」
「金? いりませんよ、金があっても使い道もねぇですし、必要になればその時稼げばいい。それに別に俺、名声や功績も興味ねぇの、姫様御存知でしょう?」
「……っ」
サクは名声欲がなく。
褒美で金を与えられても使い道に困り、面白がってユウナは"今一番欲しいもの"を買ってこいと言ったことがある。
すると、リュカと待つユウナの前に、途方もない量の月餅を並べた。
――姫様が好きな月餅買い占めてきました。これだけあれば、笑顔になれますね。さあどうぞ、召し上がって下さい。
ユウナの笑顔こそが、一番欲しいものだと。
じーんと感動してしまったユウナが、遠慮なく全部平らげようとすれば、サクは怒った。
――姫様、少しは一緒に食べましょうとかないんですか!? 今度豚姫様と呼びましょうか、俺!!
――サク、ユウナが白目剥いてるから、膨らんでいる頬をそんなに押さないっ!!
遠き……三人の思い出――。