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吼える月
第16章 船上 ~第2部 青龍の章~
「姫様、俺を……使って下さい。俺のすべてを縛って下さい。名実ともに。俺は、姫様だけの武神将として生きたい」
「サク……」
根気負けしそうになるユウナは、それでも必死に抗った。
「……だけどね」
「………」
「……あたし…」
中々頷かないユウナに、業を煮やしたのはサクで。
「……あ゛~、もう」
苛立たしげに頭をぼりぼり掻きながら、強い語気をユウナに向けた。
「俺がいいって言ってるんですから、姫様は素直に"はい、お願いします"と言えばいいんです。つーか、言え!!」
「……っ!?」
ユウナの動きが、その命令口調に固まった。
「あ、すみませんね、つい本音が。……って、姫様!?」
突如、ユウナが床に座り込んだからだ。
「そ、そんなに言い方恐かったんですか!? 怖がらせるつもりはまるで……って、は!?」
ユウナは崩れたわけではなかった。
サクの目の前にて、両手を床について座ったのだった。
……故意的に。
そして言った。
「ふつつか者ですが、どうぞよろしくお願いします」
少々ずれた表現だったが、それはユウナなりの…最大の感謝表現だった。
姫が臣下に頭を下げるとは言語道断ではあるが、そんなことどうでもいいほどに、ユウナの方が……サクをどうしても欲しかった。
諦めきれないのだ。
ではいざ、サクを他に放つと考えると。
他の元で武神将として活躍しているサクを考えると。
サクの成長を間近で見たい自分がいる。
一緒に成長していきたい自分がいる。
サクが欲しい――。
自分はサクに懇願される立場にはない。
自分こそがサクに懇願する立場なのだと、ユウナは考えたのだった。