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吼える月
第16章 船上 ~第2部 青龍の章~
ユウナは走る。
無我夢中で走る。
手には、サクにあげたかった腕輪を握りしめて。
望めば誉れある未来が約束している身の上なのに、こうして落ちぶれた自分との逃避行を選び、自らの未来を捧げようとしてくれるサクに、感謝の気持ちを届けたかった。
喜んで貰えるといいなあと思って渡そうとしたのに、サクは振り返りもせず返事すらしてくれず。……どうでもいいというように。
その後ろ姿が冷たく、掴まれた腕がまるで咎人を取り押さえる兵士のように、情を感じなくて……。
サクに喜んで貰いたかった。
サクに身につけて貰いたかった。
女神ジョウガと四神獣の加護ある腕輪を。
昔、サクが武闘大会で優勝した時にあげたのは、玄武縁のもの。
偉大なる武神将になるようにと願いを込めた。
だから今は、晴れて武神将となったお祝いに、あの時以上の加護があるように、誰よりサクが幸せになれるように、そんな思いで一目惚れしたこの腕輪で、サクの未来を輝かせたいと思った。
そのために失うリュカの指輪も、髪も……惜しくないと思った。
途中リュカを思い出して遣り切れなくなったけれど、そこは自分でなんとかしないといけない心の転換。
前に進むと決めたからには。
皆を守れる立場となりたいという目標ができたからには。
どんな感傷すら思い出にしないといけない。
共に玄武殿を…互いを、護りあったあの思い出を反故にして、餓鬼の居る場所にリュカひとりを置き去りにしたことで芽生えた自責の念。
不条理で不可解な裏切りを受けたとリュカを詰りながらも、結局自分もまた、リュカを捨て置いて逃げた……そんな己の非道さに心が痛くなった。
昔ならそんなことはありえない。
船から飛び降りてリュカを救いに行っただろう。
……たとえ餓鬼を操る首謀者であっても、危ないからと我が身を呈してリュカを護ろうとしたはずだ。
だが、今はただ船から見下ろすだけだった。