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吼える月
第16章 船上 ~第2部 青龍の章~
どんな思いを心に秘めていても、それは昔のように表には出せないのが現実。サクだってそうだ。リュカにいまだ未練を残しながらも、自分のためにそれを言い出せない。動けない。
それこそが、道を違えてしまった現実だというのなら、自分が心に抱く過去への感傷を思い出すのは、ここで最後にしよう――。
そう思いを込めた髪を、床に散らした。
長い髪は、リュカに対する長い情でもある。
愛よりも恋よりも。どうしてもサクとの三人の記憶の方が強く蘇ってしまったユウナは、リュカと決別するために……最後に泣いた。三人の思い出に別れを告げるために。道を違えたことを憂えた。
……ただ、それだけだった。
それだけだったのに、サクの変貌の理由がわからなくて。
リュカと別れを告げたはずなのに、なぜサクまでいなくなりそうになる?
しかもその原因が、自分の髪の短さらしい。
似合うと言いながらも、それ以降、ユウナの顔を見なくなったのだから。
倭陵には、長い髪の女性はそれだけで美しいとされる。
ユウナは、自分が美姫だと言われているらしいことはそれとなくわかってはいたが、それは髪をいたわり長く綺麗に伸ばしているからだと思っていた。
サラは髪が長いが、綺麗で可愛らしい顔立ちをしていて、若々しい。
だが自分の顔は、あそこまで魅力的だとは思えなかった。
その自分を、サクが嫁にと言葉にしてくれた時は、嬉しかった。
一番近くにいる男性に、女として映っていたことが面映ゆかった。
……サクへ恋心が芽生えていないにしても、あのサクがそう言ってくれたのは、女としては本当に嬉しかったのだ。
だが今、サクは不機嫌で口をきかなくなってしまった。
部屋にいろと言われて飛び出すようなことは過去幾多もあり、今回のようにここまでサクが無言の怒りを持続することはなく。
いつもなんだかんだとぶつぶつ小姑のように怒りながらも、こちらの話を聞いてくれた。迎合しようとしてくれていたのに、今はそれがない。
広い世界に、ぽんとひとり突き落とされた気分だった。