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吼える月
第16章 船上 ~第2部 青龍の章~
「姫様――!!」
サクが、付近に立つ別の支柱に片足をつけて飛び跳ねながら上方に移動し、ユウナを追いかける。
その素早さと速度は、縄の動きに負けていない。
届く――。
「きゃあああああああ!!」
あと少しで、ユウナの手に――。
「姫様、手をもっと伸ばして!!」
サクは叫んで、彼自身も思いきり手を伸ばした。
「姫様――っ」
突如変化した世界。なんでいきなりこんな目に合ったのかわからず、恐怖に震え狼狽するユウナは、サクに向けて手を伸ばしかけ……躊躇した。
逆さ吊りになった自分の顔にかかるのは、下衣の裾。
つまり縄で繋がれている自分の下半身の状態は……?
ふと、思ってしまったのだ。
足が、下着が丸見えになってしまうのでは、と――。
「いやあああああああ!!」
別の焦慮感がユウナを襲う。
「ちょっ、なんで手を引っ込めるんですか!! こんな時になにまだ怒ってるんですか!! 姫様、手、手、手――っ!!」
サクに見られてしまう――。
下着の中身を既に見られていたというのに、女として見られていないからサクに嫌われたと思うユウナにとって、"女らしさ"は重大なことだった。
本能からの危機感よりも、女としての羞恥心が勝ってしまった。
混乱していればこそ、ありえないことに執着してしまったのだ。
「手ですってば、姫様!!」
今、足から手を離したら――。
あまりにはしたない。
サクに見られるのが恥ずかしい。
これ以上、女として嫌われたくない。
サクにより、"女"として目覚めつつある自覚がないままに、最低限、女としての砦を守ろうとユウナは必死になる。
こんな時に服装に拘るのは、愚かだとわかっている。
今はそんな状況ではないことはわかってはいるのだけれど――。
だけど、どうしてもサクに醜態をみせたくなかった。
これ以上、嫌われたくなかった。