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吼える月
第16章 船上 ~第2部 青龍の章~
「なにやってるんですか、早く手を!!」
もう少しでユウナに手が届くのに、届かない。
「その握ってる『わっか』捨てて、俺に手を伸ばして!」
サクが駆け上ってきた柱は短く、これ以上ユウナが上方に行ってしまったら、手が届かない。
「これ離すのも嫌あっ! だけど足離すのはもっと嫌あああっ!」
「こんな時に一体なにを……っ」
手が届く距離なのに拒まれているのが、どうしても納得いかないサクは、意地でもユウナから自分に助けを求めさせたかった。
自分に心を向けさせたかった。
しかしそんなつまらぬ男の意地で、これ以上ユウナを危険にさらすわけにはいかない。
ここは強制的に縄を切るしかないと、赤い柄に触れた時である。
「あたし、女の子だもの――っ!! サクの目からはそう見えないかもしれないけれど、髪が短くなったって女の子なの――っ!!」
「は……?」
「あたし、もうこれ以上、サクに嫌われたくない――っ!!」
サクの目と口が一瞬、理解不可能というようにぽかんと開かれた。
その間にユウナがまた上へと移動してしまい、サクは舌打ちして慌てて追いかける。
「なに言ってるんだ、この姫様は。こんなに俺が好きだ好きだ言ってるのに、嫌うってなによ? いつ俺が女以外の扱いを……ああ、もう面倒臭ぇぇぇぇっ!!」
駆け上りながら叫ぶ。
「あとで説教ですからね、姫様――っ!!」
かなり誤解があることを感じ取ったサクは、片手でサラの赤い柄を強く振る。
じゃきん。
音を立てて飛び出る鞭のような多節棍……基すべては刃なのだが、それを湾曲させて繋げたまま、鎌のような形に固定し、サク自身駆け上りながら高く跳ね――。
ぷつり。
縄の端を素早く手に巻き付けて、ユウナをそのまま肩に担ぐ。
そして再び柱を蹴るようにして、重力を分散させながら下方へ降りる。
「さあ、正体現わしやがれっ!!」
ユウナとサクふたり分の重みがある上に、サクがぐいぐいと故意的に下に引っ張った結果、縄は――。
「うわわわわ!!」
今度はなにやら、向こう側で小さな人影を高く吊り上げながら、ふたりは無事に甲板に着地した。
「ちくしょうっ! あたいを離しやがれ」
釣れたのは、口の悪い小さな少女のようだった。