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吼える月
第16章 船上 ~第2部 青龍の章~
「え……だったら、この船に女の人がいなかったのももしかして……」
揺れた目を寄越すユウナに、テオンはしゅんとした顔を見せた。
「……女のひとって、混乱するとすごい甲高い声出すから、だから先に眠ってて貰ったんだ。……ごめんね、お姉さん。ちょうどあの時、ひと仕事終えて汗掻いたから着替えようとしてた時で。だけどお姉さんは可愛かったから、売り飛ばすのも可哀想だなって思って……」
「色気づいただけではなく、他人様から盗んだ商品を売りつけたのか、このクソガキ。俺の問いには答えねぇくせに、なに姫様の質問には素直にぺらぺら答えるんだよ」
「……ん、ええと……人徳の違い?」
「あ!?」
サクは腰に手をあてて威嚇したが、テオンはペロリと舌を出し、悪びれた様子はあまりみられない。
きっとこうした悪事に携わることは、初めてではないのだろう。
幼い割には、堂々としすぎている。ためらいや罪悪感など微塵もみられない。
「……ふぅっ。そして商人の持ち物及び、商人ら船客自体を売り飛ばすために、後でやってきた仲間と共に、横につけている何艘かの船にせっせと素早く積み入れていた……わけか」
「船……?」
ユウナがつま先立ちになって船の外を見てみるが、それらしき帆は見えるものの、船かどうかまでは全貌が掴めない。
「柱の上に上った時、やけに別船がこの船の横につけてきているなとは思ったんですよ。まさか乗っ取りの船だったとは……」
「そこまで観察してたの、この猿!!」
「上からただじたばたして泣き騒ぐどこかのチビ猿とは違うもんでね」
「……イルヒ、上に上ったの? まだ上に上るのは早いって……」
「吊し上げられたんだよ、このひとでなしの猿に!!」
「姫様吊し上げておいて、ひとでなしとはなんだ!!」
「テオン、このうるさい猿と知り合い?」
「お前な……っ」
「ん……。ちょっとさ、夫婦のこのふたりを僕が仲違いさせちゃって……」
気まずそうにテオンは苦笑する。
「「夫婦!?」」
同時に素っ頓狂な声を上げたのは、サクとイルヒ。