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吼える月
第16章 船上 ~第2部 青龍の章~
「こっちは終わったぞ――っ!!」
「綱を引け――っ!!」
「よぉし、もっと上げろ――っ!!」
「これで全部か――っ!?」
「こっちはもう少し!!」
人の声――それは声変わりをしたばかりのような、不安定な声音を響かせる、複数の少年達のもの。
帆柱によじ登っている小さな影をサクの目は捕えた。
サクは面白くなさそうにため息をつくと、少女をぎろりと睨み付けた。
「なんとも派手にやってくれるな、この盗人共達。"子供"だけで」
「子供だからってなめんじゃねぇよっ!! い~だっ!!」
「イルヒ――っ、イルヒ――っ」
少年の呼ぶ声が響く。
「ああ、テオン、あたいはここだよ――っ!!」
呼応して少女……イルヒは立ち上がり、大きく手を振った。
「もうこっちは終わったぞ、さあ早く撤退……って、あああ!?」
駆け寄ってきたのは、そばかすだらけの少年……テオン。
ユウナに腕輪を売った小さな商人だった。
ユウナとサクを見ると、ざざざと足を止め、上擦った声をあげて仰け反った。
「なんでお姉さん達ここにいるのさ!! 部屋で仲良く舐めてって、最高級の蜂蜜渡したじゃないか!! 物音しても出て来ないようにって」
するとサクは、腰に手を当て……反対の手で頭をがしがしと掻く。
「察するに……。お前達は人売りと窃盗目的でこの船に乗り込んだと。お前は商人なんかじゃなく、お前があの場所で積み上げていた袋は、他の商人の持ち物か、或いはその商人自身が入っていたのか?」
テオンからは返事がない。
返事がないことこそが、肯定なのだとサクは思った。