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吼える月
第17章 船上2
「サク、意地悪……。まるでハンみたい」
「どうとでも。俺も、男としてかなり傷つきましたから。まさか俺が、髪如きで姫様を嫌いになるような薄情男に仕立てあげられているとは露知らず」
「……っ」
「間違っていたことはちゃんと告白して謝る、これがひととしての基本です!!」
「……っ」
「姫様?」
観念したユウナは、項垂れ……そこから上目遣いにサクに言った。
「あたしが勝手に勘違いしていました。ごめんなさい」
「それはなんで?」
にやりと笑うサクは、既に確信犯。
「サクに……っ、いつまでも必要とされる女でありたい……っ、ごめんなさい、もうこれ以上は恥ずかしくて情けなくて、無理。無理――っ!!」
ユウナの顔は真っ赤だった。
「あははは、姫様ゆでだこ」
そう笑いながら、サクは実に晴れ晴れとした顔でユウナに言った。
「馬鹿な姫様。なんで俺が姫様を嫌いになるんですか。姫様が丸坊主になろうが、そんなことありえねぇ。俺が姫様が好きな気持ち、なめねぇで下さいよ」
それは切ないまでに真剣な顔。
やるせなさそうな情熱を秘めた漆黒の瞳に囚われそうになり、ユウナの目もサクの瞳同様に、細かく揺れた。
「姫様はどこまでも俺の中では女以外のなにものでもねぇんです。言ったでしょう、俺は姫様を嫁にしたいんだって。俺は待っているって。それを信用されずに勝手に離れられるのは、きついですよ」
「ご、ごめんなさ……」
「姫様、なんでリュカの名前を呼んで、泣いていたんですか?」
突如空気を震わせた、サクの堅い声――。
「いや、いいです。これは俺の問題……」
自嘲気味に笑い、自己完結して誤魔化そうとしたサクに、今度はユウナがそうした"逃げ"を許さなかった。
「聞こえてたの?」
「……まぁ」
「リュカとお別れをしたの」
「え?」
それはサクにとっては意外な言葉だった。