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吼える月
第17章 船上2
「この髪ね、リュカが好きだと言ってくれたから伸ばしていた。それを思い出して、切ることであたしの区切りにしたかったの。
だけど切る時、サクとリュカとの思い出が蘇って。吹っ切ったつもりだったのに、あの頃は楽しかったなって……。そう思ったら、リュカを餓鬼に残してしまったあたしの非情さが思い知らされて。道が違えてしまったんだなって思ったら……哀しくなって」
「……ふたりの思い出ではなく、俺を入れた三人の?」
「ええ。考えてみれば……ふたりの思い出ってあまり思い出さないわ。ないはずはないのにね。思い出すのはサクとリュカと三人のこと。山賊をやっつけたこととかね。そりゃあいつも、あたしの思い出にはサクはいるわよ、いつも一緒にいたんだから」
ユウナの微笑みに、サクはただ無言でじっとユウナを見つめていた。
「だから、あたしは短い髪で出直したいの。強くなりたいの」
その目は……偽りはなく。
だからこそ、蒼陵でのジウの変貌を聞いた時に、リュカのことを冷静に判断していたことに繋がるのだろうとサクは思った。
髪を切る……それがユウナの変貌の契機だったのだ。
――リュカああっ!!
だけど耳に付くあの声音は。
別れたくないとせがんでいるような――。
今でもやはりユウナから出るリュカの名前に、心がぎゅっと苦しくなる。
だが――。
自分も変わらねばならない。
サクは、どこまでも悪しき方にしか思えない自分の女々しさを振り払うように、両手で自分の頬を数回叩いた。
そして盛大なため息をつくと、ユウナの前で片膝をついて頭を下げた。
「姫様。俺もかなり大人げなかったようです。勘違いさせてしまった俺にも非はありました。すみません……」
「早とちりしたあたしが悪いわ」
「いえ、姫様を不安にさせた俺が悪い」
「違うわ、あたしのせいで」
「いえいえ、俺のせいだ」
平行線の会話に、やがてふたりはぶっと吹き出した。