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吼える月
第17章 船上2
「なんで?」
サクは力なく笑う。
「……俺がそうしたいのは、こんな時じゃないから」
「………」
「姫様の心が貰えた時じゃないと、俺は気持ちよくなれません」
「……っ」
「……それとも、くれますか? 俺に、姫様の心……」
おちゃらけて言いながらも、その目はユウナを切なく見つめる。
「あたし……」
しかしユウナからは言葉は出て来ず、困惑めいた表情が濃くなるばかり。
言葉が出ないということは、そういうつもりがないということ。
男として意識されても、そこまでには至っていないということ。
厳しい現実――。
嫌、なのだ。
自分と想いを通い合わせて、そういうことをするのは。
やはり。
理由がなければ、ユウナには触れられないのか。
冗談めかさないと、駄目なのか。
どこまでも、一方通行だ――。
くつくつとした自棄のような笑いが喉もとから込み上げる。
「あたしはサクが好きよ?」
「ええ、知っています」
ユウナが自分をどれほど大切に思ってくれているのか。
だけど自分が欲しいのは違う。
「それじゃあ駄目なの?」
欲しいのは、親愛の情ではない。
女としての、情愛なのだ。
「すみません、俺は欲張りなんで」
虚しい笑みを笑い続ける自分は、道化だと……密やかに嗤う。
抱きたい。
抱きたい。
こんなに荒狂うほどにユウナを求めているのに、笑うばかりで。
笑いたくもないのに、笑うことしか表情が作れなくて。
……この1年、そうやって自分の心を偽り続けてきたから。
それが終焉を迎えるのはいつなのか――。