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吼える月
第17章 船上2
「上手くいえないけれど……、身体の疼きを、なんとか……するためとか、サクが気持ち、よく……なるためにとか、目的のために……二の次になっ……て、都合良く、口にする"好き"は……軽くて……嫌。そんなの……サクに、失礼……でっ、そんなもの……あげたくない。もっと……普通の時に……っ、もっと、きちんと……したい、の……っ」
「姫様……」
「軽く言える……そんなもの、より……あたしが、今まで感じ……ていた"好き"の方が……よほど長い間、真剣で……深くて…重くて……。だけど、それをサクがっ、嫌だと…いうのなら……あたし、我慢する」
それはサクの言葉を、真剣に捉えようとすればこそ。
「サクの……気持ちを、いい加減に……返すくらいなら、サクと一緒に……我慢する……っ。その方がいい……っ」
朦朧としているだろう意識のもと、ユウナから吐き出される言葉はどこまでも真情であることがわかればこそ、
「サクを置いて……ひとり楽になるのは……あたし嫌っ」
……愛おしさが募る。
辛いだろうに。
早く楽になりたいだろうに。
それでも優先しているのはサクのこと。
サクの心を真剣に守ろうとしていること。
確かに、ここでユウナに"心をあげる"と言われても、欲情から出た……その場限りのものではないかと疑心暗鬼になるだけで、素直に嬉しいという感覚にはならなかったろう。逆に虚しくなっていたのではないだろうか。
好きだからこそ最後まで抱きたい気持ちを耐え忍ぶ、そんな自分の愛を軽んじられたように思って。
訊いたのは自分のくせに、求めた答えが早々に返れば、益々暗澹たる出口のない迷宮を、辛さを抱えて彷徨うことになっていたかもしれない。
そこから救いあげてくれたのは――。
「大丈夫……だよ……っ」
自分の身よりも、ひとのことを大切に思ってくれた姫。
ユウナは笑う。
身体を震わせながらぎこちなく。
「これくらい……あたしだって……」
サクは、きゅっと口を結んだ。