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吼える月
第17章 船上2
  

「サク……サク、サクの身体に触れたい……っ」


 半ば快感に朦朧とした顔ではあるが、ユウナは肌の触れあいを望んだ。

 少し驚いたものの、サクは嬉しそうな顔をして、ユウナの愛撫を続けながら飾り紐を解いて……上衣をはだけさせた。

 露わになるサクの逞しい胸板に、ユウナの両手が置かれる。

 そしてその手は、おずおずと……サクの身体に巻き付いた。


「サク……ぎゅっとしたい……っ」


 して欲しいのではなく、したいのだと。

 そうせがんだユウナに、サクは優しく笑い……ひとまずユウナへの愛撫をやめた。するとユウナは顔をサクの胸に、頬をすり寄せるようにして抱きつくと、安心したように安らいだ表情を見せ、上目遣いでサクに微笑んだ。


「サクの胸……ドクドクしてる」

「そりゃあ……。姫様はどうなんですか?」

「……ドクドクしてる」


 媚薬効果で、性欲が高まっているはずなのに……、穏やかすぎる会話と時間がそこで流れた。


 激情に勝る、静謐さ――。

 それに満足できているのは、身体の欲を抑圧できるほどに、心が潤っていると言うこと。


 ふたりの心が、身体以上の繋がりをなしていると感じているということ。



 今まで消えていた海猫の鳴き声が、ふたりの耳に届いた。

 身体の火はまだ消えておらず、燻っているというのに……、平和的に終結したかのような穏やかな風も感じた。


 ドクドク、ドクド…クン、トクン、トクン……。


 忙しかった鼓動も、安定した律動に落ち着いていく――。

 ばらばらのものが、ひとつになったように感じた瞬間、ふたりは自ずと呟いた。


「同じ、ですね……」

「同じ、だね……」


 サクもまたユウナの背に両手を回して、ユウナをさらに引き寄せる。


 より強まる熱と甘さに、サクは思わず目を細めた。


 ユウナの鼓動が肌を通して伝わる。

 "好き"に違いはあるのに、その鼓動の速度がふたり……ひとつになりゆくのが、幸福感としてサクの心を満たしていた。

 
 サクの胸の奥は、塞き止めていた愛情で溢れ返る。


 切なくなるほどに愛おしい。

 ユウナが好きで仕方がない。



 サクの手は優しくユウナの髪をまさぐった。

 何度も頬でユウナの頭を愛撫した。



 伝われ。

 どうかこの想い、ユウナに伝われ。
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