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吼える月
第17章 船上2
しかし――。
「……っ」
サクの唇は、触れあう直前でユウナの頬にずれた。
欲しかった場所に熱を貰えなかったユウナが、きっと目を伏せてしまったためにずれてしまったのだと、再度思い切って唇を近づけてみたが、サクは哀しげな表情ですっと遠のいた。
「……っ?」
今度こそはと、もう一度顔を近づける。
……サクは哀しげな表情のまま、唇の代わりに掌をふわりと押し当てた。
ユウナの唇は、サクの唇を捕えられない。
「意地悪は……やだっ」
サクは表情を抑圧したような顔を、静かに横に振る。
「これは……意地悪ではありません。……しては駄目なんです」
「……どう……して?」
唇が重ならなかったのは、事故でも偶然でもなく。
直前で思い直されたサクの意志があったという事実が、ユウナの心を悲哀に染めあげる。
重なりそうだったのに。
重ねたいのに――。
サクは……違うんだ?
ユウナの心が、身体のようなすきま風を感じた。
それは悲哀であり落胆であり、怒りでもあり切なさでもあり。
込み上げてくる複雑な感情の正体を明確に出来ぬままに、ユウナは愛らしい顔を悲哀に歪めてしまう。
「姫様……なに泣きそうになっているんですか……。泣きたいのは……こっちの方なんですよ、姫様」
目を涙で潤ませたユウナを、もう一度胸に掻き入れたサクは、幼子をあやすように優しくユウナの後頭部を撫でながら、切なげな表情で苦笑した。
「……俺の願願掛けなんです。唇は、姫様の心が俺に向いた時に。その時までは、しません。……どんなに、したくてたまらなくても……」