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吼える月
第17章 船上2
それは、ユウナの呪詛を鎮めた時から変わらぬ、サクのこだわりだった。
そのこだわりこそが、サクの自制心の最後の要――。
獣とは違い、発情した衝動で抱きたいと思っているわけではないという、確固たる意志表明だった。
そっと胸から離すと、涙で濡れたユウナの両頬に手を添え、
「本当なら、この唇……奪いたくて仕方がねぇんです。それでも……わかって下さい。……俺が、どれだけ姫様のこと、真剣に想っているのかを」
サクは、焦れたように瞳を揺らしながら、ユウナの瞳を覗き込んだ。
そこには意地悪めいた表情も、冗談めいた表情もなく。
見ている方が切なくなるほどの苦しげなもので。
「ね?」
その漆黒の瞳には、ちらちらと情欲の炎が揺れているというのに、サクの自制心はその衝動を無理に押さえつけ、あくまで穏やかな笑いを見せた。
……サク自身の心もそう諭しているかのように。
ユウナは一度目を伏せてぐすっと鼻を啜り、上目遣いを返した。
「ん」
一応、同意はしたものの……その唇は、奪ってくれといわんばかりに尖っていて。それが可愛くて仕方が無いサクは、その弾力性ある唇を親指で触りながら、熱の籠った声を響かせた。
「だから唇にいつか辿り着くように……。これだけは」
サクの熱い唇が、ユウナの唇を除いて、何度もユウナの顔に降り注ぐ。
くまなく、静かに。
「これだけでも、俺としちゃぁ……精一杯愛を注いでいるんですよ?」
啄む様な優しい口づけに、都度サクは願いを込める。
ユウナに想いが伝わるようにと。
心を通い合わせることが出来るようにと。
いつか……、心までも貪りあうようにして、唇を重ねたいと。
ひとつひとつ――。