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吼える月
第2章 回想 ~遭逢~
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13年前――。
黒陵国、首都揺籃(ようらん)。
険しい山で覆われたこの地域においては、山越した商人がもたらす交易が盛んであり、揺籃においては各地方の名産品が華々しく店に並んでいた。
倭陵の住民達の服装は、前襟を重ねて腰の位置に飾り紐や腰布で縛るのが基本だが、地方の風土の特色によりその裾丈が足首まであるものや、二部式になっているもの、袂の長さ、飾り・色が相違している。
黒陵においては奉る神獣の"玄武"にあやかり、黒色が基調で亀の甲羅模様を模したような、玄武織と呼ばれる飾りを施している服が多く、山歩きしやすいように、動きやすい上衣下衣の二部式のものが主流だ。
活気ある揺籃の片隅。
汚らしい路地裏で、醜く肥えた男が、今し方泣きながら去ったばかりの男から奪い取った、金の詰まった壺を撫で回していた。
「姫様、見ました?」
こそこそと話しかけたのは、両耳に白い牙の耳飾りをした黒髪の少年。
黒地の服の襟と袂に施されたのは、赤い玄武模様の刺繍。実にすっきりとしたシンプルな出で立ちだ。
年齢的にはまだ6、7歳といったところだが、前を見据える眼光は大人顔負けのものがあり、野性的に整った顔は中々に将来有望だ。
「ええ、ばっちりよ。許すまじは悪徳商人。……いい? サク。いちにぃのさんだからね?」
それに神妙に答えたのは、長い黒髪を高い位置からひとつに縛った少女。
上質な赤い服にふんだんに施された、黒を基調とした細々とした刺繍は、実に繊細であり豪華なものだった。
少年より多少幼く見えるものの、目鼻立ちがくっきりとした少女であり、特にぷっくりと膨らんだ、桜貝のような唇が愛らしい。
「わかりました。いちにのさんですね」
微妙に数の数え方が違うのに気にすることもなく、同時に数え始めた少女より先に少年が飛び出し、慌てて少女も飛び出した。