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吼える月
第2章 回想 ~遭逢~
 
 「うわ、なんだ!?」


 恰幅のいい商人に体当たりして、よろけたその腕に噛みついたのは、サクと呼ばれた少年。

 男が声を上げてぶんぶんと腕を振るが、離れない。
 

 その隙に、不安定な体勢で反対手で持たれた壺を少女が奪って走る。


「待て、泥……いや、返せ~っ!!」


 泥棒だと声をあげれぬところに、男の後ろめたさがある。

 少女が重い壺を抱えてよたよた走り去るのを見て、一度満足気に大きく頷いた少年は、その腕から口を離すと商人に振り返る。


「弱い者いじめすんな、ばーか」


 あかんべをしながら、男を足払いして地面に尻餅をつかせると、少年は少女を追いかけて駆けていった。


 物陰でため息をついて腕組みをしている人物がいるとは知らず。



 一方――。


「よいしょ、よいしょ……ええと、どこに行けば……」


 懸命によたよた走る少女の体が、突如襟首を掴まれ……浮いた。


「きゃああああ、なになになに!?」


 宙でばたばた足を動かすと、その横に、足止めをしていてくれているはずの少年も、同様な姿勢で四肢をばたばた動かして現れた。


「お~い、盗人のチビども」


 ふたりを片手ずつ、その目線の高さまで摘まみ上げたのは大柄な男。

 少年と同じ黒い服に赤い刺繍を施したその服は上質なものでできており、耳もとには片方だけ、少年と同じような白い牙の耳飾りがついていた。


「ハン!!」

「父上!!」


 日焼けした肌を持つ、精悍な顔つきをした美丈夫な男だ。
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