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吼える月
第17章 船上2
 



「俺には……、どうしても俺の欲を吐けない。姫様の心がない以上は、ただ姫様を穢すことに思えるから」


 思い出すのは、あの夜の――凌辱場面。

 金と銀が放った白濁に塗れた愛しい姫。


 リュカにどんな考えがあろうとも、リュカですらユウナを穢した。


 ならば――。

 どんなことがあっても、自分は……ユウナの清らかさを守りたいのだ。この愛を守り通したいのだ――。

 

 ぎゅうっとサクの眉間に皺が深く刻まれた。


「……っ」


 そして、苦しげな顔を空に向ける。

 熱を冷ますかのように、澄んで拡がっている蒼天を。



「今はただ、姫……ユウナが、こんなことを許してくれただけで、幸せだと…思えるから。俺の想いに応えようとしてくれているのだけでも、嬉しくてたまらないから。……それがたとえ、媚薬のせいであったとしても……」



 そして――。

 安らかな寝息をつくユウナの額に、唇を落とした。



「いつか……俺を愛してくれるように……。

願掛けが……報われるように」



 媚薬の効果がまだ残る身体――。

 身体から引かぬ熱をもてあましながらも、サクは満ち足りたような笑顔を向けて、またユウナを抱きしめた。



「愛してる……。

いつかお前の心ごと、抱かせてくれ。

それが叶うなら、俺はどこまでも耐えられる――っ」



 悲痛な叫びに呼応するように――、

 どこかで、……海猫が鳴いた。



 激流などなにもない、凪いだ光景――。


 それは心地よく、同時に……他人事のような物悲しさをサクに伝えた。









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