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吼える月
第18章 荒波
「ね、ねぇ……っ、イタ公ちゃんの代わりにもこれならないかしら?」
ユウナは上擦った声を響かせた。
このままだと、溶けてなくなりそうな気がして、慌てて話題を変えてみるしか取れる術はなく。
「……。そういえばあいつ、どこにいるんだろ……」
思った以上に容易くサクは抱擁の力を緩めてくれ、その隙にユウナは深呼吸をして鼓動の乱れを直すことに専念できた。
「あいつ……満腹の時と空腹の時は、力使えねぇほどぐうたらになって役立たずになるからな。イルヒの玩具にされるだではなく、まさか食べられたり……」
そうサクが懸念した時だった。
「姫様、俺のところに!!」
サクが叫ぶより早く、ユウナは抱きかかえられ。
同時に――船が大きく揺れた。
そして、遠くから響くのは複数の子供の声。
それは母船の方角だ――。
「人食いサメの大群だ!!」
その声に誘われるように、ふたりが乗る船の脇から……とてつもなく大きな、そして鋭い牙を幾つも持つ"魔"のようなものが、空高く跳ね上がった。
「きゃああああ、なにっ!?」
初めて見る、海から飛び出た巨大すぎる魔物――。
海に居るとされる"魚"とは比較にならないほど大きく狂暴で、この貨物船より遙かに大きい体躯と、明らかに取って食おうとして見せている…鋭利な牙だらけの大きな口に、ユウナは恐怖して悲鳴を上げた。