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吼える月
第18章 荒波
子供達が"サメ"と呼んだ魔魚は、サクの素早い動きにより、その大きな口の中に獲物を捕えることが出来ずに、苛立たしげにガチガチと歯を鳴らしながら反対側の海に沈んだ。
間髪入れずにまた違うサメが飛び上がる。
山育ちのユウナは、海から現われるこの魔魚の迫力に完全に萎縮してしまい、引き攣った呼吸すらままならない。
迫り来る大口は、ふたりを砕こうとガチンガチンと歯を鳴らして開閉し、そして狙いを定めたように尾びれを動かして、ふたりに狙いを定め――。
ユウナとサクの頭上に不穏な影が落ちた――瞬間。
「姫様、失礼しますっ!!」
サクはユウナを掬うようにして左肩に担ぎつつ、右手で赤い柄を振って長剣にし、サメより上の高さにまで跳躍した。
ふたりの動きに対応出来ないサメは、ふたりの代わりに荷物や船体を派手な音をたてて噛み砕きながら海に再び潜った。
足元に見下ろすのは……、ふたりがいなくなった貨物船が、半壊した姿で海の藻屑として沈みゆく惨い風景。
「……なっ」
「あの口、要注意ですね」
それを作り出した凶悪な海の魔物は、分裂したかのように今度は海から幾つも飛び上がり、宙より落ち始めたふたりを食らおうと、大きな口を開けて斜め上から狙いを定めてくる。
「サク――っ!!」
「大丈夫です、姫様。クマよりもこいつらの動きは単調で、死角が広いっ」
高さを違えて襲いかかるサメの凶刃な歯から逃れる術を、サクは冷静に判断を下していた。
サクは一番下で口を開けて落下を待ち構えているサメの口の中に、上から剣を突き立て、柄に両手をかけてぶら下がると――
「姫様、俺にしがみついていて下さいよ!?」
二人分の体重をかけて、剣を下に力一杯引き落とした。