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吼える月
第18章 荒波
 

 グオオオオオオオオオ。


「ごめんなさい、青龍様――っ!!」

「うわあああああ、恐いよ――っ!!」


 怪物は咆哮して威嚇すれど、震え上がって泣き出すのは子供達ばかりで、サクは萎縮することはなかった。


 シバと戦う怪物を横目で見ながら、こちらに倒れくる細い柱を刀で切り、二次災害を防ぐ。


「おら。しっかりしろ。戦っているシバを応援してやらねぇか。泣くな!! ……姫様、姫様。白目剥いてますが、大丈夫ですか? 姫様? ふぅっ、こっちは完全に戦意喪失。だけど俺には、どんなに威嚇されてもやはり青龍だとは思えねぇんだよな」


 サクがユウナや子供達を励ましながら、ぼやいた時。


「そこのでかいの!! なにもたもたやってるんだ、オレの刀を早く返しに来い――っ!!」

「相変わらず、可愛げねぇ奴だな…。言い方っちゅーもんを考えろっての」


 船の要となる太い支柱が傾き、船はさらに不安定になっている。

 ユウナや子供達のことは心配だったが、かといってシバひとりに任せてこのまま長期戦になると、損傷され続ける船は完全に壊れて沈む――。


 だとすれば。

 船を失わせないためには。


 サクは大刀を握る手に力を入れた。

 その目は獲物を見つけたかのように好戦的に輝き、舌舐めずりをする。

 

「……姫様、可愛くねぇシバがどうしても救援求めているようなんで、ちょっくら加勢に行ってきます」


 最優先事項は、あの得体の知れぬ怪物を倒すしかない――。

 そう思い至ったサクは、戦う決心をした。


「行ってきますって、あれ人間じゃないのよ!? サク、サクになにかあったら!!」

「……。俺がやられると?」


 純なる瞳で覗き込まれたユウナは、言葉に詰まった。


「大丈夫。俺には玄武の加護も(多分)あるし、可愛い姫様から心身共に力貰って気力も漲っているし?」

「――っ!!!」


 突如妖艶な眼差しを受けたユウナは、その意味する処を悟り真っ赤になった。


「なにより俺には"これ"がありますから。なにせ姫様が祝福の口づけを下さった、なによりも心強いものですし」


 サクは貰った腕輪に自らの唇を落とすと、ユウナはさらに顔を沸騰させて目を泳がせていた。サクと間接的に接吻をしている心地になったのだ。
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