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吼える月
第18章 荒波
「あれが神獣だとしたら、いくら奴でも無謀なことはしない。俺よりは遙かに頭よさそうですし? つまりあいつでなんとか出来ると踏んだから、ああして挑んで、子供達を守っているんでしょう。……あれは、ひとが相手できる程度のものです」
サクが促した上空――。
瑠璃色の髪を陽光にきらきらと反射させながら、青龍刀を両手で振り回すシバがある。
未知なる怪物に挑むその姿は果敢で勇猛で。細身とはいえ長身なのに、軽快に宙を移動して飛び跳ねる様は、まるで空を飛んでいるよう。
「だがどんなにあいつの身体能力が高かろうと、空を飛べねぇ人間である限りは分が悪すぎる。あの怪物の爪が、あいつの足場となる帆柱やら船やらをこうやって破壊していけば、さらには闘いの衝撃で高波に浚われ、船がおおっと……こんなに大揺れだ。青龍刀の威力と命中力が半減してしまうのは必至。
長期戦になれば、この船自体もたねぇ……って、うわわ、殺す気か!!」
サクが反射的に飛び退いた、今までいた場所には――。
シバの持つ青龍刀がひとつ、深々と甲板に突き刺さっていた。
サクが避けねば、確実に死んでいただろう正確さと、躊躇いのなさ。
「おい、コラ!! こんな時に狙うなど卑怯だぞ、シバ――っ」
重厚感たっぷりのその武器を、軽々と片手で引き抜いてぶんぶんと振り回すサクは怒声を上げて抗議する。
「うるさい。手元が狂っただけだ。無駄口叩いて騒ぐ暇あったら、早くそれをオレに返しにここまで来い!! 一刻も早くっ!!」
……サクの力を必要とするほどには、向こうも手こずっているらしい。
たてがみを靡かせながら、怪物がこちらに顔をのぞかせた。
それは倭陵に伝わる絵巻物に出てくる、龍という伝説の存在のものに酷似しており、裂けたような大きい口にびっしり生えた歯が、サメよりも凶々しい狂暴さを見せ、神聖さはまるで感じさせられない。