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吼える月
第18章 荒波
その時、玄武の力の波動を感じると共に、イルヒの胸から水飛沫が迸ったのが見えた。
心で語り合っていたイタチ……基、亀はイルヒの服の中におり、使えぬはずの水の力を使っていることに、思わずサクは怒鳴った。
『これは力の集合体のような我だから可能な反射的な自己防衛。力の行使なくとも、最低限で我を護る結界のようなもの。これぐらいで"あやつ"は我だと気づきはせん。
だが、ただ……可能性的に、ふむ。この国で青龍の力が感じぬのは、我の領域であらぬのと、我が特殊なる融合をした上で我の力は小僧に押さえられているからと思うておったが、もしやそれを逆手にとられたか?』
そして、なにやら考え込んだらしいイタチはこう言った。
『ならば小僧。そこから俯瞰して、なにか気づくことはないか? 小僧は父親とは裏腹に考えさせるほどに馬鹿さ加減を露呈するが、その直感だけは父親に似て鋭い。その直感こそが、我の推測の是否を決める。よく見てみよ。早う!!』
言葉の9割ほどの貶し言葉を自覚しているゆえに文句を言えぬサクが、急かされるままに再度眼下を見て、1割ほどの褒め言葉に準じてみれば……。
――あ!?
『やはり、か。今、小僧は動くな。動けば死人が出る。姫の合図を待つのだ。それまでの一切の手出しを禁ずる。なにがあってもな。無血の解決を願う姫の行動が、恐らくは功を奏す』
待ちに待ち、じれじれとしながらいらいらとしながらひたすら待ち、さらには不穏な動きをする妙な魚が近づく海の中に、イルヒだけではなくユウナも飛び込むのを見る羽目になる。
――なにが功を奏すだよ、イルヒだけではなく姫様が!!
『待てというのをわからぬか!! 姫がなぜ、ああして喝破して海に飛び込んだと思っておる!! お前を信頼しているからこそ!! ならばお前は、姫の信頼に応えよっ!!』
――イタ公。もし姫様がぎりぎりまで俺の名前を呼ばなかったら、姫様を助けに行く。姫様を見殺しにしてたまるか!!
そしてようやく、呼ばれたのだ。
「サク――っ!!」