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吼える月
第18章 荒波
海水を弾く、サクから放たれる水色の光――。
その神々しさ。その暖かさ。
初めて自分も触れたその力の波動の感覚に、ユウナは心の底から込み上げてくる感動のような衝動を堪えきれず、涙をひと滴零しながら合掌して神獣玄武に祈りを捧げた。
玄武の祠官として生まれたのに、神獣の力を感知することもできず。せいぜいその存在があると感じられるのは、武闘会における武神将の闘いを傍観していた時に。それは視覚という、誰でも持つ器官を通じての感知だ。特別性などなにもなかった。
そして、そんな玄武の力をより親近感を持って"見た"のは、黒陵出国時にサクが初めて力を操った時だった。
ユウナは、初めてサクが水色の光を纏って海水を巻上げた……、あの時の仰天した心地と畏怖を思い出す。
あの時のユウナも、第三者と同じただの"奇跡"の目撃者にしかすぎなかったけれども、あの時自分は確かにサクに……未知なる神獣の加護を得ているとだけは確信出来たのだった。
海というものが、玄武が司る水で覆われた舞台である以上、この場は青龍ではなく玄武の独壇場ではないか――。
自分の……玄武の武神将が、大きいだけのあんな"にょろにょろ"に負けるはずはないという一念において、ユウナはサクに賭けたのだ。
サクが奇跡を体現すれば、それはすべて……玄武という馴染みない存在よりは、蒼陵では曖昧すぎる神獣という存在の方を浮き彫りにさせると。