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吼える月
第18章 荒波
「凄いわ、凄い。サク……っ、こんな短期間でまた成長したのね!! 制御出来るなんて凄いわ、思った以上の出来よ!!」
サクに抱きかかえられながら、船に乗り込むために軽やかに宙を飛んでいるユウナが破顔してサクを褒め称えれば、サクは僅か満更でもない顔をして少し鼻の下を伸ばしたが、すぐにきりりと……幾分凄みある顔を向けた。
「姫様」
「凄いわ、サクすご~い。さすが~」
ユウナはなにか言いたげなサクの言葉を上書きするように、矢継ぎ早にとにかく誉めて、拍手も送った。
ふにゃりと緩むその顔は、すぐさまに険のある表情にて強ばる。
「………。ねぇ、姫様」
「きゃあああ、さすがは武神将よね!!」
年相応の黄色い声……にも思えるが、その声はやけに上擦っている。
「ひめ……」
「早く儀式しましょうね!! さ、船に着いたわ。イルヒ~、テオン~」
サクの両足が船に着地したのを見て取ると、ユウナはサクから飛び降り、そそくさと……、呆然と口を開けたまま固まっているふたりの子供のもとに駆け付けようとした。
だが――。
「ちょっとお待ちを、姫様」
サクがユウナの襟首をひょいと摘まんで、簡単には離さない。
「なんですかその、適当に褒めておけば、俺からの説教はうやむやになるだろう……的な逃げ方は」
明らかにぎくりと反応したユウナは、振り返り様、引き攣った顔で笑った。
「サク……。時々お利口さんになるわね……」
「姫様、幾ら俺が馬鹿でもわかりますから。そのあからさまな"褒め殺し"、程度が過ぎれば全然誉めて貰えているようには聞こえません。――姫様」
サクはユウナの両頬を思いきり伸ばした。
「イタタタタタっ!!」
「そりゃ痛いでしょうよ、痛くしているんですから!!」