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吼える月
第19章 遮断
 

『な、なんと……。青龍がいたら今頃我……。しかも小僧に説教をうけるなど……。よいか、本来の我はこんなに俗めいて間抜けではあらぬ。これは我と融合した先住者の、彼の者のせいだ。いや、我の姿を象った小僧のせいだ。小僧の馬鹿さが浸透して作られたのだ。そうに違いない。我はひとに崇められる聖なる神獣玄武なるぞ。玄武……なるぞ。……ぐすっ』


 なにやら泣きそうな涙混じりの声を響かせると、ぱしぱしとサクの頭をその尻尾で叩いた。力なく。


 八つ当たりだとわかればこそ、責められたことに理不尽さを感じるサクではあるが、近寄りがたい神々しさで自分を導くよりも、たとえいつも上から目線で威張り腐っていようとも、こうしたなにか人間臭さを持つ庇護すべき小動物さを見せつけることがなんとも微笑ましく思え、散々罵られている平生ではあるが、ここぞとばかりに口撃する気にもならない。


「しかし、色々制約あるとは、神獣も楽じゃねぇんだな……」


 代わりに、大きな力を持ちながらも自由に生きられない神獣に憐憫の情が浮かぶ。


『そうとも。まあ慣れてしまっているとはいえ。……それなのに、鎮護する神獣の苦労をしらず、特にこの国の民の神獣に対する不敬さ、薄情さ。青龍が如何なる神獣なのかを理解しようともせずに、自分勝手に青龍像を作り上げる。青龍がこれを知ったら、どんなに嘆くことか。黒陵にも不徳の輩は数多くいれども、少なくとも我にはあの信心深い姫や、礼節を重んじるお前の父がいるというのに、これではあまりにも"ひとりぽっち"な奴が不憫だ。……うぅ……』

「おいおい、お前が泣いてどうする。つーか、俺は?」

『我は慈愛深い神獣なのだ……』

「だから泣くなって。それよりなぁ、俺は? 俺!!」

『小僧は……。ただの馬鹿だ。ああ、これが玄武の武神将とは、なんだかそれも嘆かわしい……うぅ…っ』

「なんだか失礼な奴だよな。だけどまぁ、俺も未来に化けるから。安心してほら泣き止め。な?」


 ぽろぽろと涙を流す泣き虫なイタチに、思わずサクは、頭上に手を伸ばして、その指でふかふかの体を弄り慰めると、イタチは小さな手でサクの指に両手をかけて気を奮い立たせたようだ。
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