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吼える月
第19章 遮断
「抵抗すればいいじゃねぇかよ。少しぐらい力で濡らして脅かしてやるとかさ」
『我は慈愛深い神獣なのだ。あんな幼い子供に力を向けられぬ』
「……俺の時は、思いきり容赦なく痛めつけたくせして」
『それとこれとは別だ!! それに神獣同士、不可侵の盟約というものがあるから、他神獣の国にておいそれと我が力の行使は出来ぬのだ。まず国を守護する神獣に挨拶をせんと。もしもそれを怠り、先に青龍が我の力を感知していたら、盟約に則り青龍より三度の攻撃を受けねばならぬ。
あやつは冗談が通じぬがちがちの石頭で、まったく融通が利かぬ。手加減というものを知らずに、いつも全力だから今の我など即座に……』
サクの頭上がふるふると震える。
どうみても小動物な姿の神獣は、仲間からの攻撃を怖れているらしい。
サクはイタチが表現する青龍の姿の向こうに、武闘会で戦ったジウの姿を思い出す。まさしく、ジウそのものが青龍の特色のようだ。
そのジウは今、どう変貌しているのか。
ハンが信頼するに値するとみなしたあの外見上は野獣の如きジウの姿を懐かしく思いながら、サクはふと思った。
「………。なあ、俺……船が円滑に進めるよう、船から力使ってたのよくなかったんじゃ?」
海を見ただけでは、どこが黒陵領でどこが蒼陵領かはわからない。端境など感じたことも気にしようともしたことはなく。
ましてや神獣同士にそんな取り決めがあるなど聞いておらず、僅かだけれども覚えたての力を使い、船を支えていたのは確か。それがどちらの神獣領域であったかはわからぬけれども。
『使ってたのか、いつ!! 怠け小僧が力の復習などいつ!! 我は知らぬ、知らぬぞ!!』
イタチが驚いた声を上げるのは、サクが力の行使の学習などしないと決めつけていたからなのか、それともサクが力を使ったことを知らなかった自分に対してか。
「お前が、船内のネズミとりに奔走してた時。お前、その姿になったらネズミ喰いに走るか寝てるかのどちらかだよな。まあ力の大部分は俺が貰ってるからあまり大きなことは言えねぇけどよ、お前……本当に本能の赴くままっていう感じだぞ? 特に腹減った時なんて、そのことしかねぇから、完全野生化しねぇように気をつけろよ」
……絶句したようだ。