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吼える月
第19章 遮断
サクがわざわざ話の矛先をシバに向けて手招いても、侮蔑のような冷ややかな目で「黙れ余所者」と言わんばかりに、ことごとく無言で拒まれる。
視界の端で黙って立っているだけなのにやけに存在感があるために、とにかく気になって仕方が無く、サクにとっては苛立つ相手だった。
サク同様ユウナも、ずっとひとりでいるシバが気になり、ちらちらとシバに視線を向けていた。
潮風に揺れる、青くきらきら輝く長い髪――。
煌びやかな海に溶け込みそうな、青く染まった冷ややかな美貌。
感情を凍り付かせたような横顔から、どうしても孤独な翳りを感じるユウナは、自らが子供達を拒む距離感を作りながらも、新参者の自分達のように護り続ける子供達から懐かれないシバに哀愁を感じずにはいられなかった。
子供達は、強くて勇ましく自分達を護ってくれるシバを慕いこそすれども、サクへのような親近感は覚えていないようだが、テオンだけは声をかけに行ったり、無事だった菓子や飲み物をせっせと運んでいる。
「テオンもね、シバのように兄貴の片腕になってあたい達を護ろうとしてくれてるんだ。だけどシバはあまりに強すぎて、テオンはシバに追いつきたくていつも密やかに腕を磨いているんだよ。だけど現実、シバに"同僚"としては認めて貰えてない。年の差というよりも、腕がシバに及ばないから。きっとテオン、シバと対等に戦っていた猿が羨ましく思っているだろうね。態度には出さずにいつも通りにこにこしているけど……」
シバとテオンが心酔する"兄貴"こと、青龍の武神将の隠し子、ギル=チンロン。
テオンとイルヒ情報からすれば、彼はかなりの女好きだという。
絶対ユウナを気に入ると確信するサクは、シバにギルとの対面を何度も断ったのだが、船は潮の流れに乗って彼らの牙城がある浮島に向かっているらしいし、そこからでなければ蒼陵の都や青龍殿に入る船を出して貰えそうもないため、その話を渋々了承する羽目になった。
危険な匂いがしたら、強行突破して船を奪って逃げだそうとは決めているのだが、一体誰がどこの方向に船を進めさせられるのか、根本的問題をサクは忘れて安易に考えていた。