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吼える月
第19章 遮断
【海吾(かいご)】――。
それが、青龍の武神将の隠し子たるギルと片腕のシバが率いる、"捨てられた"子供達が属する盗人集団名であり、特に誰が命名したわけでもなく、自然とそう名乗るようになったらしい。
「へぇ……貴方達、"海賊"って言うの……!!」
「姫様、そこは感心するところじゃねぇですよ。カイゾクという響きが初めてのものでも、要は黒陵で言う山賊です」
山育ちのユウナにしてみれば、両足に地がつかない海における生活は興味津々で、子供達が嬉々として語るすべてが物珍しくて仕方が無い。
「だけどサク。あたしこの子達が、山賊のように残虐非道の限りを尽くし、私利私欲に囚われて他人の金品を強奪しているようには見えないわ」
「当然だよ、お嬢。あたい達はね、非力な民から金品を巻上げる海賊の海賊なんだからさ」
「威張るな。所詮は盗人だ」
イルヒは、自分を助けようと海に飛び込んできたユウナが大好きになってしまったようで、ユウナが座る膝の上が定位置とばかりに独占的に座り込み、ユウナは後ろから優しく抱きしめている。
それは本当の姉妹のように微笑ましい一場面なれども、ユウナを独占された気分のサクにとっては、まるで面白くない。
シバは群れる趣味はないらしく、ひとり海を見つめて立っている。
――世話になった礼に、我らが"牙城"にてギルに挨拶させたい。お前達文無しでは、この先大変だろう。
掟に忠実なシバが掟をねじ曲げて、初めて"例外"を認めて内に入れようとした、ふたりの部外者。その部外者を好意的に思えばこそに、シバの態度の軟化を望んでいながらも、実際にそうした彼の姿を目の当たりにした子供達は大いに驚き、シバに熱冷ましの薬を飲ませようかとひそひそと話をしていたほどだった。
それだけの特別な変化を見せたのに、積極的に迎合する態度を見せないシバは、いつも通り子供達の"保護者"としての傍観姿勢を貫き、この賑やかな輪に加わろうともしていない。
この場の部外者はシバのように思えるサクは、共に戦ったというのに他人行儀すぎる態度が、子供達の責任者たる大人の対応というよりも、単純に協調性がないだけのようにも思えた。
ひと言で言えば、"可愛気がない"――。