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吼える月
第19章 遮断
"手当"の仕方を教わっているだけなのに、集中してしまうのはサクの手の動きではなく、サクという男の存在だった。
今まで通りサクとの間には、気心知れているという幼馴染み以上の親密感はあるのだが、主従としての距離感も同時に感じていた。肌を重ねる時も、サクは従僕としての"理由"を必要とし、決して無体なことはしない。
サクは自分に求愛や求婚をしても、従僕の姿勢も崩すことはなく。では睦み合ったことも流してくれるのかと思えば、復唱させたりと決して忘れることを許さない。むしろ記憶に刻み込もうとして逃してくれないのに、なし崩し的な馴れ合いにならぬような壁を作って、すべては夢だったかの如く禁欲的な姿勢をとる。
そこに安心しながらも、あの情熱的な熱を消されたことに寂しい心地すらしているユウナにとって、不意打ちで睦み合いのようなことをしてくるサクに心が揺れるのだ。
「あははは。姫様、だから……どうしてそうなるんですか。まったく」
艶やかな声が耳を擽る。
"嫁"の単語に噛みまくりの姿はどこにもなく。誰が見ていようが構わず、慣れ親しんだ護衛役よりも恋人のように、その所作がその声が甘く優しくて、睦み合いの場面を彷彿させるのだ。
"この程度"は許容範囲と考えているのだとしたら、彼は肌を重ねるようになってからユウナとの距離感を一気に縮めている。
サクは――。
己が少しずつ変わっていることを、感じているのだろうか。
それとも自分だけがサクをこんなに意識しているのだろうか。
多分、意識しているのは自分だけで、"嫁"ですら噛みまくりだったサク自身は、そうした変化に気づいていないのだろうと思う。
それが悔しい。割り切れるサクが恨めしい。