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吼える月
第19章 遮断
イタチは実に気分がいいらしい。
野生化した肉食小動物街道を突っ走る新生玄武でも、サクの知らぬところで色々とサクを生かすための補佐をしているゆえ、空腹になりやすい。サクの根本的な魔との契約は、破棄されたのではなく……ハンによって延期になっただけだ。
無事に生きていられるのは、イタチのおかげであることはサクも十分承知しているし、喜ぶ顔は愛らしく思えてついついネズミ採りを応援してしまい、だからいつも肝心な時にぐうすか寝て助言を仰げないのが難点だが。
「姫様、俺がやりますから。道具下さい」
「嫌。これはあたしが見込まれて貰えたお仕事だもの。あたしがやる」
頑固な姫は、言い出したら昔から曲げない。
「ふぅ……。ようやくひとり。うまくいったわ……」
それをわかっているものの、ユウナが満足そうに仕上げた出来具合は、サクにとっては顔を引き攣らせるほどの"不出来"で。その手当の粗雑さに失神しそうになっている、患者である子供達に同情した。
「しかしですね、折角"手当"しても……ここまで固められたら、動けませんよ。むしろ、動けないようにしているような、見事なまでの緊縛具合。姫様は"そっち"に実は天才的だとか……。いえいえ、独り言です。姫様、大丈夫な部分は動かせるようにしねぇと」
サクがやり直したのは、子供の膝の部分だった。元来不器用であるはずのサクがする巻き方は、手慣れたイルヒより鮮やかで実に機能的で。
それは体の筋肉構造を知る武人だからこそ出来る、最低限の体の負担ですむ薬草固定術といえるもので、怪我をした子供の強張った表情が緩くなる。
……なにか面白くない。
ユウナは口を尖らせて、サクを無視して別の子の"手当"を再開すれば、
「だから姫様。そこの"ぎゅーっ"は必要ないですから」
サクが後ろからユウナを抱きしめるようにして、その手を触れながら直接的な指導が入る。
「俺のをよく見ていて下さいね。こういう風に巻いた布を返して……」
うなじに感じる、サクの熱い吐息――。
まるで抱擁されて口づけられているような妖しい心地になってくる。