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吼える月
第19章 遮断
「具合悪いですか?」
必死に自分を立て直していたというのに、艶やかな声で吐息混じりに耳もとで囁かれると、許容量を超えてしまったユウナは爆ぜた。
「サクのくせに。サクのくせに、サクの……うぅぅぅっ!?」
「いぃぃぃぃっ!?」
焦って立ち上がろうとしてしまったユウナは、思わずサクを頭突きをしてしまい、サクと共にじんじんする頭を手で押さえて唸り声をあげる。
「いてぇぇぇ……。姫様、石頭……。額に、たんこぶっ……」
素直にごめんなさいを言えば、サクを意識したことを追及されそうで、それを隠すように、薬草付きの布をサクの額につけると、持ち合わせで一番長い布をサクの頭をぐるぐると巻いて、逃げ去った。
そんな騒がしいふたりをイルヒとテオンが見ていた。
「ねぇ、テオン。あたい……まだちょこっとしか生きていないチビだけどさ、あの年上の猿は馬鹿だとひしひしと感じるんだよ。いちゃいちゃして真っ赤になっちゃったお嬢に対してより、お嬢が巻いたあのへったくそな手当をして貰った方が、へらへらと嬉しそうに笑える要素があると思う? テオンなら、あの手当の方がいい?」
「好きなひとが自分を心配して手当をしてくれたという事実の方が、猿お兄さんでもわかる"確実性"があったんだよ。きっとお兄さんは、お姉さんから不憫すぎる目にしかあってなかったんだろうね。あんな些細なことでも嬉しいなんて、なんだか可哀想なお猿さんだよね……」
「あのふたり、恋人じゃないのかな……」
「夫婦でもないみたいだけれど、あきらかにお姉さんにとってお兄さんは特別に思っているよね。"姫様"って呼んでいるということは、お姉さんがどこぞの身分の高いひとなんだろうけど、ただの従僕に向ける顔じゃないよ、お姉さんの赤い顔」
「お嬢に勿体ないよな、あんな馬鹿で脳天気な猿相手だったら」
「きっと僕達にはわからないお兄さんのいい処があるんだろう。まあ強いしね」
「うん、強いしね。……だけどそれ以外、いい処まるで浮かばない。いいのかなあ、そんなの相手で……」