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吼える月
第19章 遮断
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「……おい、なにをしている」
魚がかかった網を肩に担いで現われたシバが、ユウナによって布でぐるぐる巻きにされた……前に釣りあげられた魚達の有様を見て、剣呑に眉を跳ね上げた。
「なにって……。このお魚さんは人畜無害だと聞いたから。血がドクドクして怪我しているから、よくなったら海に帰そうと……」
「………。海の民をおちょくっているのか」
顔の表情は冷ややかのまま凝固しているが、髪と同じ深い海色の瞳に浮かぶのははっきりとした苛立ち。
こんなに無表情でも一応喜怒哀楽は感じられるのだと妙に感心したユウナだが、苛立たせた原因は自分の不器用さかと思い、嘆息をついて言った。
「やっぱりそんなに巻き方下手なのかしら? だけどぬるぬるしていて巻きにくくて……。シバはうまく巻けるの?」
「これから食べる魚を介抱してどうするんだ――っ!!」
冷静沈着を貫いていたシバから発せられた怒声よりも、その内容の方にユウナは目を見開いた。
「ええええ!? 食べるの!? これを!?」
「オレを非難がましい目で見るな!! ぐだぐだ言わずに、さっさと捌け!!」
「さ、さば……?」
「食えるように調理しろということだ!! 女なら調理ぐらいできるだろう。ほら、小刀……これを使って」
「刀で…怪我しているお魚さんを……?」
内股気味のユウナの両足。小刀を両手で握るユウナは、びくびくと動く手当したばかりの魚にその刃先を向けて、ぽろぽろと涙を零した。
「ごめんね……。ごめんね、せっかく助かる命だったのに。せっかく助けてあげようとしてたのに。捕まえちゃってごめんなさい。食べることになってしまってごめんなさい。殺したくないけど……だけどこのひとが怒るから」