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吼える月
第21章 信愛
 

「……っ!?」


 ユウナの手を挟んだ口づけ。

 欲に蕩けた顔をしたサクが、じっとユウナを見つめていた。


 切れ長の男らしいその目に痛いほどまっすぐな情熱を湛え、僅かに顔を傾かせて艶気を漂わせると、再度ユウナの手に熱い唇を押しつける。


 熱に潤んだふたりの視線が絡まり合う。

 ユウナは、サクの妖しく揺れる黒い瞳に吸い込まれていった。


 サクの熱い眼差しは、この行為がただの愛撫ではないと告げていた。


 これは接吻だと。

 口づけたいのだと。


 ゆらゆらと揺れるその瞳――。


 それは懇願のようで、命令のようで、ユウナを全力で捕らえようとする……必死さすら見えた。


 このまま惹き込まれろといわんばんりに、その真摯たる強さで惑わし、顔の角度を変えながら、この行為の意味を察して応えてくれといわんばかりに、何度も唇を強く押し当ててはユウナを急かす。


 サクの熱で、手が熱い。胸の奥が熱い。


 サクの"男"に魅入られたユウナは――、サクに呼応したように、自らの掌に、強く唇を返した。


 僅かに震動するユウナの手が、手を介して……両側から唇を重ね合わせているのだということを、ふたりに告げる。


 手がなければ、と思うのに、手に意識を集中しすぎて、直に唇を合わせているような気分になっているふたりは、手を外す必要性も感じなかった。


 唇を合わせたい――。

 絡み合ったままの視線が互いにそう物語っているのなら、その欲に従って互いが動いている事実だけで嬉しく思った。


 熱に蕩けたようなサクの目が、妖艶さを増して細められる。

 手の甲に唇を押しつけるだけではなく、悩ましい顔つきにて舌をちろちろと動かし、荒々しく舐め上げる。


 サクの目は、そうした激情をもてあましているのだと、告げていた。


 淫らな誘いだとわかりつつも、ユウナがおずおずと舌を突きだしてそれに応え……、同様に舌を動かしたのを手の振動で感じ取ったサクは、やるせなさそうな顔をして、暫しユウナと共に手を舌で舐めあった。


 やがてぎゅっと苦しげに目を細めると、手の甲を音をたてて思いきり強く吸い上げ、そして――。




「姫様が……愛おしい」



 切なそうな顔で、絞ったようにそう言うと、ユウナの襟ぐりを左右に開いた。
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