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吼える月
第21章 信愛
――わかってるから、そんなに不安気に笑わなくていい。……すぐには出来ないけど、ゆっくり……待っていてくれるのなら。あたし……ちゃんとサクに応えられるようになりたい。
「サクが苦むのなら……、ふさふさ……いらない。サクが……辛いなら……あたしいらないよ……っ」
――あたしの武神将を疑い穢すことは、あたしが許さない。
そこには、サクに対する疑いは微塵たりともなかった。
純粋に、変わらず迷いなく示し続ける自分への信愛――。
イマ、オレハナニヲシヨウトシテタ?
体の欲に負けそうになり、無自覚ながらも心で涙を零していたサクは、ユウナからの愛に我に返った。
ユウナを守りたいと心から願うのに、私情で凌辱者と同じ愚行をしようとしていた自分を恥じて、歯を食いしばる。
あれだけ信愛を受けていて、自らを欲に穢して失望させてどうする?
大事にしたいとユウナに宣言して、口づけの封印に願掛けをして。
肉欲に負けて、ユウナの信頼もすべてを失うならば、そこらへんに転がる下卑た男達よりもタチの悪い、救いようのない馬鹿だ。武神将を名乗る資格もない。
サクは眉間に皺を寄せて目を瞑り、奔流する激情を堪えた。
愛おしい――。
押えてもなお残る余韻に頭がおかしくなりそうだ。
それは漂う酒の効果の如く。
「サク……きて。ぎゅっとしてあげる」
ユウナが両手を拡げて無理矢理にサクを包み込んで胸に押しつけ、慈愛深い微笑みを顔に湛えた。
「ふさふさはいいわ。ふさふさより、こうしていたい。辛い時は、あたしに甘えて……」
ほろりと、頬に零れる涙をサクは感じた。
ささくれだっていた凍てついた心が、じんわりと温かくなった。
好きで好きでたまらなく好きで。
欲しくて欲しくてたまらない女性。
その女性を、犯そうとしていた自分。
強気で負けず嫌いで世間知らずで、理不尽な理由でいつも自分は泣いてきたけれど、なにより自分の悲しみに敏感で、いつもこうして愛をくれた、この愛おしい女性を。
この手を離したくない――。
ユウナを失望させたくない――。