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吼える月
第21章 信愛
「どうしました?」
耳が、熱い――。
いつもいつも自分の傍にいてくれたサクの、まるで体の一部のように自己主張していたそれが、今、自分の耳もとで揺れている。
サクが、居る――。
他の場所ではなく、自分のところに居る――。
「姫様?」
「サク――っ」
思わず両手を拡げて、逞しい胸元に抱きつけば、サクは困ったような顔で、嗚咽を漏らすユウナの背中を撫でた。
「どうしました、姫様」
「ごめんなさい、涙が止らないの」
感動という情を超えていた。
込み上げるこの感情をなんと名付けていいのかわからない。
とにかく嬉しいのだ。
サクが、自分と共に居てくれることが。
「俺は、姫様のものですからね」
そう自分を抱きしめながら、嬉しそうにサクが囁いた。
「俺を傍に置いて下さい」
ユウナの胸がさらに熱くなり……、返事が出来ずにただ泣きながら、こくこくと頷いた。
それを見たサクが、ユウナの額に唇を落とす。
「姫様と、巡り会えて……本当によかった」
なんでサクは、こんなに泣かせるのだろう。
ユウナはサクの首根に両手を回して抱きつきながら泣いた。
ぽんぽんぽん。
あやすような優しいサクの手が、背中と頭で動いている。
ありがとう、なにもないあたしに尽くしてくれて――。
それを言いたいのに、熱く乾ききった喉からは言葉が出て来ず、ただサクにしがみついてユウナは泣きじゃくった。