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吼える月
第21章 信愛
「我慢我慢我慢。あたしはサクの主だもの、そんなことをお願いするわけには……」
サクの身体の芯に、爆ぜたようになにかが走る。
ああ、なぜ今まで気づかなかったんだろう。
ユウナは本当に、"おねだり"していたのだ。
それは自分の欲に眩んだ心ゆえの、身勝手な勘違いではなく。
誘い方を知らぬ初々しい姫は、とにかく睦み合うきっかけを得るために、隣に来て欲しいとせがんでいたのだ。
それを自分は拒み続けていた……。
だからあんなにショックを受けていたのか……。
ショックを受けるほど、睦み合いたかった?
俺に……触れられたかった?
俺の心に……近づいている?
サクの心に、なにかがカチリと音をたてた。
そして。押さえ込んでいる焦げ付くような想いが溢れた。
ああ――。
ユウナを抱きしめたい。
ユウナを感じさせたい。
自分を求めさせて、果てさせたい。
狂おしいほどの恋慕の情。
苦しい、苦しい、苦しくてたまらない。
苦しいほど、ユウナの熱を感じたい――。
この飢えたような欲情が、ユウナも同じだというのなら。
ユウナをこの苦しみから救わないと。
このままだと身体が辛すぎて、泣き出してしまうから。
そんなユウナを置いて、ジウの元に行きたいとは言えない。
そう、だから。
だから触れないと。
俺が、"治療"しないと。
ユウナが治療を望んでいるのは、俺なんだ――。
サクは、ユウナを触れる"理由"を手に入れた。
そしてそれこそが。
『小僧。邪なる欲を押えこみ立場をわきまえようとするその潔癖さは実に好ましいが、時にその忍耐強さが見ていて心が痛む。我は自ら選んだ武神将に我への崇敬の念や謙虚さは求めど、武神将を理由に犠牲を強いたりと、なにかを奪うものにはあらぬ。
理由なくば動けぬ単純ながら複雑な武神将に、小僧の父ばりのお節介な祝いの品だ。"次なる試練"に備え、主と信愛の繋がりを強め、消化不良を解消せよ。
……嫌な予感がするのだ、ひたひたと…我も感知できぬなにかの足音が近づいている予感が。……それを乗り切る力とするために』
愛情とも不穏ともとれるイタチの呟きは、サクの耳には届かなかった。