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吼える月
第22章 不穏
◇◇◇
部屋に閉じ込められて数刻――。
「――ということです。覚えましたか?」
ユウナはサクの念押しに、微妙な表情をした。
「ねぇ、サク……。なんでこの格好……」
「儀式をした武神将と主人の結びつきは今まで以上なんです! 遠隔的にでも姫様を守るには、俺達は一心同体だって強く自覚する必要があるんです!」
「それはわかるけど……。そんなに耳もとで何度も囁かなくても…。普通に向かい合わせでお話しても…」
「どうして気にするのは格好のことなんですか。もぅ……、姫様は物覚え悪いですから、こうやって耳もとに何度も何度も『注意事項』を叩き込まねぇと駄目なんです!」
「だからって……」
「だったら姫様、親父のように肩に担ぎ上げて尻叩いた方がいいですか? 姫様、確かそれで鎮魂舞の祝詞(のりと)、覚えましたよね?」
「いや、いいです。これでいい。だけど、サク……。武神将になったから、下にいると言ってなかった?」
「臨機応変と言いました。それに姫様、ここが"下"ではねぇと言うのなら、俺が姫様の膝の上に乗りますか?」
「いや、いいです…。なんか重そう……。漬け物になっちゃう」
「失礼な! 悪いお口はここですか!」
「いゃっ。さひゅ、しょれおきゅひにゃらきゅほっぴぇ(痛っ。サク、それおくちじゃなくほっぺ)」
サクは床の上に胡座をかいて、その上に後ろ向きにユウナを座らせ、後ろから抱きついていた。
情事の後の定番……とはいえ、いつも以上に愛おしそうに、大きなその身体にユウナを包み込んで、ゆらゆらとゆりかごのように揺らしながら、時折、ユウナの頬を摘まんでモチのように伸ばす姿は、どこか消化不良な情事の結末に八つ当たりしているようには見えるが、サクの表情は実に幸せそうだった。
そしてユウナの首には、サクが寝台の下から引きずり出したふさふさイタチ。ユウナに巻き付いたまま、熟睡中だ。