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吼える月
第22章 不穏

 
「不思議だわ、なんでイタ公ちゃんが突然ふさふさになるのかしら…」

「それはその……。俺と儀式したせいで、多分これからも頻繁にふさふさになって現れると思います。ええ、時々じゃなくて、多分頻繁に!!」


 そこにサクの願いが込められているのを知らず、嬉しいわなど顔を綻ばせながら、ユウナはイタチのふさふさな毛並みを撫でる。

 その愛おしそうな仕草をサクは不愉快そうに見つめながら、ユウナの頭上に乗せた顎をぐりぐりと回した。


「イタ公に触りすぎると、つるっつるに戻りますよ」

「きゃっ。早くそういうこと言ってよ! あたし、ふさふさを首に巻きたいんだから……」


 この虚言は使えると、サクは内心ほくそえむ。


「ねぇ、どんな理由でイタ公ちゃんがふさふさになるの?」

「それは……んー、俺と姫様の絆が強まれば、玄武の力でそうなるんです。難しいからくりと玄武に聞かなきゃわかりません。とにかく、そういうことです!」

 強制終了。


「ん~、まるで目覚めた時、サクが拳立てしているくらい不可思議なことね」

「放って置いて下さい!!」

「……あの鍛錬嫌いが、なんでそこまで鍛錬好きになっちゃったの? 鬼みたいな凄い顔して、目なんて血走っちゃって必死に鍛錬していたじゃない?」

「俺事情です! それは深く突っ込まないで……」

「……また、一緒じゃ、なかったの?」

「え?」

「サクの、嘘つき」

「ひ、姫様……? よく聞こえなかっ……」


 ユウナが頭上に乗せられたサクの顎を押し上げるように、むくれた顔をサクに向けて言い直そうと頭を上げると、ユウナの唇がサクの顎を掠めた。

 サクはびくりとしながらも、目を細めてあえてそれをよけない。

 むしろもっとというように、頬を下に傾けてくるその様は武神将と言うより甘えっ子のようで、ユウナは苦笑しながらサクの鼻に噛みついた。
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