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吼える月
第23章 分離
――猿、蒼陵の男はしてはいけない船旅がある!!
それを聞いたのは、根城に行き着く前に遡る。
イルヒを真似して、猿猿とうるさく呼んでくる子供らが、自慢げに海を知らないサクに言ってきた。
――まずは船には女を乗せないこと。そして日没後、艮(うしとら)の方角に船は出してはいけないこと。
艮とは北と東の中間。魔の入り口とされ、倭陵大陸においても北の玄武と東の蒼陵の間を遮断する険しい山脈を、あえて切り崩そうという動きがなかったのは、それがひとつの理由でもある。
切り崩せるものでもないから、あえて放置。
まさかそれがイタチ曰く、青龍の身体の一部とは知らずして。
知らぬからこそ、青龍は皆の目に付く場所に堂々と身体を横たえて居られたのだろうが。
だが同時にそれは、倭陵に降り注ぐ災厄を、青龍の身体自らが受けているということでもあり、より悪循環に青龍の力が失われていると、イタチは推測した。
――青龍、我が同胞……。なぜに反応があらぬ……。
しくしくと、さめざめと、自称慈愛深いイタチが友を思い泣いていたことをサクは思いだした。
――艮とは、どこから見ての方角だ?
――俺達の砦。
その時サクは思ったのだ。
――それは誰から教えて貰った? 親か? ギルか? シバか?
――テオン。
夜、子供が船を出して航海するのは危険だということはわかる。集団を統率上での戒めという形に受け取れば、なにもおかしなことを言っているわけではない。
だが、もしも。
日没後、砦の艮にある"なにか"に、近づけさせないためのものだったら?