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吼える月
第23章 分離
「聞いて欲しいのか?」
待ってましたとばかりににやりと笑って、こちらを振り返ろうともしないテオンの後ろ姿に向かって言えば、
「欲しくないけど」
不満げに返る声音に、いつもにはない…若干だが刺々しさがあった。
「じゃあいいだろう、別に」
是とも否とも返事はなく。
荒くなってきた潮騒の音ばかりが、また耳に届いた。
テオンが答えないこともサクの想定内。
テオンに聞きたいことは山にはあればこそ、サクはあえて核心に踏み込もうとはしなかった。彼の全身での警戒がわかればこそ。
だからテオンとの間に安全領域を築き上げ、自分は敵ではないと信用させるのと同時に、テオン自らその話題を振らせるように試みていたのだ。
待つことには慣れている。
後は"知っている"という餌にテオンが飛びついてくるのを、じっくり待つだけだった。
警戒という情は、知られたくない志がある場合に抱く念。
そしてそれは表面上でも忠誠を誓っていたように思えたギルやシバにも知られぬように、ひっそりとしっかりとテオンに根付いていたものであるだろうことを悟ればこそ、テオンの立場がたとえシバ達にとって敵対関係であったとしても、同時に自分と敵対の関係にはならないことを、テオン自身に解させねばならなかった。
そのためには、距離と時間が必要だった。
そしてその待つ時間は、もうそろそろ終焉を迎えようとしているらしい。
「……お兄さんが喋らないの、気持ち悪いんだよ」
"違和感"に嫌悪を覚えたらしいテオンは、ちらちらとサクを見るような素振りを見せた。
「気持ち悪いってなんだよ、俺、元々無口だぞ?」
だがサクはそれに気づかぬふりをして、あくまでのんびりと余裕めいた態度をとり続ける。
「どこがさ!! イルヒと一緒にきゃっきゃきゃっきゃ騒いでいたじゃないか」
「それはあのチビ猿が勝手に騒いでいただけで、お兄さんはいつもどっしりと構えて、お前達子供をは厳しく指導していただろう?」
「どこがさ!!」
サクの思惑通り、テオンは完全にサクのペースに嵌まってしまった。
舵を固定して、サクの元に歩んでくる。
そう、サクが敷いていた安全領域を踏み越えて。
サクの口元が吊り上がった。