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吼える月
第23章 分離
 

「なあ、テオン。ひとつどうしても解けねぇ疑問がある。お前が祠官だというのなら、祠官もまた神獣の力を身体に宿す。その力がないのはなぜだ?」


 テオンはサクに向き直り、まっすぐな瞳をサクに向けた。


「僕は……祠官じゃない。祠官の息子だよ。できの悪い、ね」


 険しくなるその顔は、シバのもつ表情によく似ていた。

 その傷を見せまいとする、仮面を被ったのだ。


「お兄さん、月毒症っていう病気、知ってる?」

「ゲツドクショウ? 初めて聞くな」

「そうか、黒陵の支配側のお兄さんでも情報はやっぱりないんだね。原因不明の奇病で、突然猛毒が回ったように高熱と激痛が身体を襲うんだ。治療薬がないから耐えるしかない。それで耐えれたら……」


 テオンは胸襟を大きく拡げて、胸元の肌を見せた。

 心臓の位置に浮かび上がるのは、大きな三日月型の赤い痣。


「で、生き抜いた僕に備わっていたのは、幻覚を見せる力。そのためかわからないけれど、そこから僕の成長が止った。あ、不死身ということではないよ。ただ肉体の成長が停止しただけで。今のところ身体は健康」

 淡々と語るテオンを、サクは目を細めて見つめた。

「病気のためか、力のためか、成長が止ったためか、それらのどれが決定的な要因かわからないけど、幾ら儀式をしようとも青龍が僕のことを新祠官と認めようとしなかった。だから僕は、次期祠官の地位すら剥奪されて青龍殿から追放された。丁度青龍殿が移転した後だったかな」


 つまり、テオンは親から棄てられたのだ。

 シバ同様に。いらない子供だと。
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