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吼える月
第23章 分離
「……なんかもう、どう生きていいかわからなくて、海に身を投げたところを、丁度船に乗ってた兄貴とシバに助けて貰った。そして生きる場所を与えてくれた。僕は彼らに感謝しているから【海吾】にいる」
「感謝しているんなら、なんでこそこそと青龍殿に……」
「駄目? 父様が心配で会いに行くのは」
向けられたのは、詰るような眼差し。
それは仮面を外した、剥き出しの感情を露わにしていた。
「棄てられたからといって、親を心配しちゃ駄目? 父様は心臓を患っているんだ」
「……」
「今、父様の動向がなにひとつわからない。いつも表に出てくるのは武神将のジウだけで。だから僕は、青龍殿の結界がなくなる時間に、父様の安否を確認したくて……」
黒幕がいて、その間諜ということではなく。
テオン単独行動で、青龍殿に行き来している……それが真実なら。
青龍殿住まいだったテオンが、青龍殿の結界の解除を知っていても不思議ではない。むしろ、そんな穴があったという方が驚きだった。
だがサクは考える。
簡単に青龍殿に忍び込んでいる事実を、青龍の祠官及びジウが見逃すかと。
「何で何度も忍び込むことが出来る?」
するとテオンは意外なことを言い出した。
「いないんだ。青龍殿には、ジウはおろか父様も、臣下も。無論、蒼陵から集ったという大人達もいない。もぬけの殻なんだ」