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吼える月
第23章 分離
『ふぅ、気持ちよい風呂だ』
ユウナはイタチの満足ぶりに心をほっこりさせながら、風呂という単語で繋がる別の意味での"気持ちよさ"を思い出し、僅かに顔を赤く染めた。
サクに身体を初めて触れさせたのは、風呂から始まった――。
凌辱された彼女の心身から、男の形跡を必死で掻き消して、そして記憶を上書きしてくれたのは、彼女が小さい頃からよく見知っているサクで。
サクの実家の温泉で、サクが男だということを意識した。
呪いというものを、命がけで鎮めてくれたのも、同じサクで。
その記憶は朧にしても、男女の愛の営みの如くひとつに結ばれ、そしてサクは今まで以上に美しい男となって、自分の元にいる。
まるでユウナの心を惑わせるかのように。
――必ず、リュカ以上に俺を求めさせてみますから。
治療でなければ、ユウナからの心がない限り最後まで抱かないと、快楽に溺れる自分とは違ってぎりぎりのところで禁欲し、なにごともなかったかのように笑って見せる大切な武神将。
自ら果てることなく、彼女を果てに追いやり。
幾度ともなく触れあいそうな唇を拒み、願掛けなのだと切なく笑うサクに、どれほど心はいいから快楽を貪ろうといいたくなったか。
潔癖なまでに真摯な心に真摯で返したい――。
それがユウナの自制心を強め、そして同時に惑わせている。
もしサクがいなければ、自分はこの世にはいなかっただろうと思う。
世を嘆き、リュカを恨み、自ら命を絶ち。
身を滅ぼしてさらに強めた呪詛となるまでの怨恨を、裏切り者で敵であるリュカに突きつけただろう。
サクが居てくれたから。
サクがその命を捧げて尽くしてくれたから。
そう思うと、胸がじんと熱くなってたまらない。