この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
吼える月
第23章 分離
「よかったわ、イタ公ちゃん。一生懸命洗ったから、以前よりとっても綺麗な毛並みよ。もう身体は大丈夫?」
『ああ、あとは腹を満たして体力を回復すればよい。そうだ、姫も我とネズミを食うか? 上質なネズミをわけてやるぞ?』
得意げにイタチは目を細め、鼻をひくつかせる。
「い、いえ。あたしはお腹がいっぱいで。ネズミならイタ公ちゃん、全て差し上げるわ。美味しくたらふく食べてね」
『なんと謙虚で優しい姫だ。ふむふむ、我はますます気に入った。これからもよろしく頼むぞ。小僧に代わって、特別に我が守ってやる。光栄に思い、困ったことはなんなりと我に言うがよい』
「まあ、頼もしいわ。ありがとう」
イタチと姫の関係も上々だ。
「ねぇ、お嬢。その亀とお話できるの?」
胡乱げな眼差しをして、隣に居るイルヒがユウナの袖を引いた。
子供達は全員同じことを思っていたらしく、その視線が一斉にユウナに集中する。
「亀じゃないわ、ふさふさイタチよ?」
「お嬢、イタチに見えるんだ……。どう見ても亀なのに……」
子供達もまた、イルヒに同感とばかりにざわめく。
「イタ公ちゃん、イルヒが用意してくれた桶で、他の皆が温度調節してくれたお湯がかなり気持ちいいみたい。優しい皆が用意してくれたお風呂、本当にありがとう」
その前にイルヒが亀の甲羅の洗浄とばかりに、硬いたわしで磨こうとしていたことは、不問にしたユウナ。
「このお姫様、こんな小亀に表情が見えるのか…」
「喋る亀なんて聞いたことないけど、さすがは玄武の国」
無論、子供達の疑問も不問だ。
ただユウナの笑顔が目映く――、子供なりとも皆、顔を赤らめた。