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吼える月
第23章 分離
「大好きで大好きで。近くに居すぎて見えなかっただけ。欲張りなほどに沢山あったサクへの"大好き"のどれもが捨てられなくて、あたしは恋愛ではないと思っていた。
だけど恋愛と自覚するためにどれも捨てなくてもいいというのなら。胸の奥で凝り固まっていたものがするすると解けていくの。
あたしは、サクと離れたくないから、リュカと婚姻しようとしてた……。その意味を、いまようやく理解したわ」
「お嬢……、泣くなって……」
「情けなくて、あたしが。あんなにサクが言ってくれたのに。あんなにサクが誠意を見せてくれたのに。どうしてサクがいなくなった時に、こんなことがわかるのかって。どうして、一番にサクに……、あたしは心を伝えられなかったのだろうって」
「帰ってきたら言えばいいじゃないか、猿に。きっと喜んで飛び跳ねて、凄いことになるよ。ああ、もう貰い泣き。いいよなあ、両想いになるって、凄くいいよなぁ! あたいも、テオンと両想いになりたいっ!!」
「なりましょう、イルヒも!! わからせてくれたお礼に、あたしも協力するから。作戦練りましょうよ!!」
「本当――っ!?」
「ありがとう、イルヒ。あたし、あなたと話せてよかった。イルヒのおかげで、ようやく外から自分の気持ちを見つめることが出来た」
想うは複雑、見るは単純――。
自らの力では成し遂げられぬことも、他人がいればここまで容易く。
そこには、性別や年齢、出生などなにも関係ない。
心と心が繋がりさえすればいいだけだ。
ユウナの顔は嬉々としていた。
恋を自覚始めたユウナは、いまだ風呂に入って会話を盗み聞きしていた、イタチの嬉しそうな顔に気づかない。無論その呟きも。
『このこと、今すぐ小僧に伝えてやってもいいが……。ここは姫の願い通り、姫自らの口から伝えるのがよかろう。ふふふ、小僧よかったな』
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……その頃、根城に、座礁した船が漂着し、意識を失った男が巡回中の子供達によって救助され、手当をするために根城に運び込まれていた。
ユウナへの欲を滾らせて猛るギルを宥めているシバは、その男を見て剣呑に目を細めた。
「この男は――」
根城に、新たなる風が吹く――。