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吼える月
第23章 分離
 



『姫、ここは鍾乳洞という』


 そんな心の声を聴いたイタチが、ユウナに答えた。


「ショウニュウドウ?」

『蒼陵の地殻変動で海底でできあがった鍾乳洞が海面に上がったのだろう。これは山ではなく海に出来た洞窟だ。この洞穴は長年の海水の力によって作り上げたもの。自然の力が作り出したそのままの形をところどころ残すようにして、ここの者達は生活しているのだろう』

「海の洞窟!? 自然の力って凄いわね……。そんな強大な力でひとの生活を守ってくれる神獣に、もっと感謝しなきゃ。早く玄武の祭壇もきちんとしたものを作って祀ってあげたいわ」


『ふむふむ。流石は姫、今はその感謝の念だけ――』


「どうしたの、お嬢? 胸元の亀ちゃんに声かけて」


『これ小娘。この見事な毛並みを持つ我を亀とはなんたること。慈悲深い我は、お前が"ぶんぶん"しでかしたあの悪業を許しているというに!!』


「あ、白いふさふさのイタチなんだっけ?」

「そうよ。イタ公ちゃんの毛並みが綺麗でしょう?」


『なんだ、小娘わかっておるのか。ならばよい。よいか、我の慈悲によってお前が許されているということを肝に銘じ、もう我をあんなに"ぶんぶん"しないことをここに誓うのだ』


「……なんというか。まあいいや、そういうことにしとくよ」


『なんとも横柄な態度だが、まあいいだろう、許そう。我は慈愛深い……』


「ちょっと寒いから、首がぬくぬくして気持ちがいいのよ」

「ソレハヨカッタデスネ」

 イルヒがなにやら遠い目でユウナを見た。

 ……その裏で、自分がユウナにしていた台詞でイタチと会話が成立していたのも知らず、今まで小亀に与えた"遊戯"という名の恐怖心に対する制裁は、信心深いユウナのおかげで許されたことを知らず。


 そして来た道を戻ってみれば、子供達が数人、開け放たれたドアの前で屯(たむろ)し、落ち着きない様子でいた。


 ユウナは記憶を巡らす。

 ここは、ギルの部屋だ。

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