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吼える月
第23章 分離
「どうしたんだい、皆?」
「あ、今さ……、僕達、巡回中に見つけた難破船から、海に投げ出されていた意識不明な男を運んできたんだけど……」
「男?」
「そう、その男だけしか見つからなかった。でその男を空いている部屋で手当してしようと運んでいる時に、口喧嘩してた兄貴とシバがちょうど通りかかり、ふたりで兄貴の部屋に連れたんだけれど……」
「それが?」
「あの男のがどうなったか聞こうと思ったのに、なんだか部屋に入りづらい雰囲気で」
「ドア開いているのに?」
「なんというか、足が入っていかないというか……。兄貴の不機嫌通り越して、来たら殺すぞ的な空気感じてさ。いつも機嫌悪い兄貴に繋いでくれるテオンもいないし」
「確かに機嫌が悪いときの兄貴は、近づくと大変なのはわかるけど、お前らはいいことをしたんじゃないか。
もぅ、だったらあたいが聞いてきてやるよ。ああ、お嬢はここにいて。シバから言われているんだ、お嬢を兄貴に近づかせないようにって」
「シバが……?」
「そうさ、シバは猿との約束を守ってる。兄貴に絶対的な服従をしているシバが、兄貴に女を斡旋しないで初めて反抗してるから、きっと兄貴も機嫌悪いだろうけれど、あたいもお嬢の味方だし。まあそんなことより、今のあたいは無敵な気分なんだ、聞くぐらい……」
そしてイルヒは果敢に部屋に入っていく。多少、その足をびくつきながらも。やはり萎縮する空気は流れているのか。
『姫、嫌な予感がする』
心配そうにイルヒを見つめるユウナは、そこで目にした。
『ここをはよ、去れ』
奥で横たわっている男――。
『この気の流れは、神獣の力だ』
それは、その姿形は。
横になっていようと意識失っていようと遠目でわかる。
何年も近くにいたのだから。
忘れようとしても忘れられない、胸に刻まれた記憶が蘇る。
――ユウナを……必ず幸せにする。
どくん。
――僕はお前が……死ぬほど憎かった。
どくん。
――苦しめ……ユウナ。
どくん。
「ぅ……ぁ……リュ、カ……?」
ユウナの口から出た言葉は、悲痛さと恐怖に掠れきっていた。