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吼える月
第24章 残像
突如サクの耳に届いた不可思議な音が、サクの煩悶を断ち切る。
「……っ、これか?」
「そう、この音が、渦が消える"合図"!!」
――渦が消える時は、いつも低い歌声のようなものがする。それは近くにいないと聞こえないんだ。
テオンの宣言通りの事態の到来――。
青龍殿の先住者あるテオンが、渦という結界が消失する大体の時間帯を知っていたのは、ジウや祠官である父親から教えられたわけではなく、ふたりが交わしていた懸案事項の内輪話を、偶然盗み聞いていたかららしい。
――そこが改良すべき点だと、深刻そうに話していたんだ。
だが、"合図"の音の存在は、青龍殿から追放されてから気づいたようだ。その音の正体はなにか、なぜそれで渦が消えるのかまでは、彼は知り得なかったが、それは実際、青龍殿の侵入の妨げにはならない。
――え、帰り? 渦が消える次回を待つのかって? まさかあ。そんなに長い時間兄貴達の元から離れていたら、幾らなんでも怪しまれるって。帰りは、方法があるんだ。
――伊達に屋敷から追い出されてないよ。追い出された時に知ったんだ。内部には、渦を制御する仕掛けがあることに。まあ、制御出来ないと、青龍殿の移転や改築は出来ないだろうけどね。
つまり――。
改築された青龍殿は、民による気軽な謁見を考えた、拓かれた作りではないのだ。国長として他国の持つ最低限の基本機能をやめ、祠官側が選んだ者以外を排除する作りになっている。
――移転する前は、違ったんだけれどね。
意味あって、移転して今の作りにしたとしか思えない。
「しっかし、なんだこの音」
サクは不快さに顔を歪ませた。
高低何種もの音色を重ね、"うぉぉぉん"と発声しているように聞こえる音は、まるで大勢が一斉になにかを合唱しているようだ。