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吼える月
第24章 残像
サクはハンより、祠官が住まう屋敷は、どの国も似たり寄ったりだと聞いており、目の前の塔のような形はどう見ても異質に思った。
塔にしては高さが足りない。なぜこんな形に改築したのか。"大人"を連行してまで、なぜここにこれを作る必要があったのか。
「なぁ、テオン。青龍殿には、何階建てなんだ?」
サクは赤く照らされた不気味な建物を、目を細めて見つめていた。
「え、一階」
「一階だけか? 塔みたいなこんな形で?」
「そう。前の場所よりも規模が縮小されただけなんだ。移転前も上下には階はなかったけれど、もっと広かったんだよ。離れや兵士の訓練場や、紫宸殿もあったのに、なにひとつない」
ほぼ、玄武殿の様相だったらしい。
それこそが、倭陵において国の主が住まう場所とされる本来の形態だ。
「それが今じゃ外壁も門もないし、兵隊もいないから渦なして攻め込まれたら大変だよ。もしも兄貴やシバがこれを知ったらと思うから、僕口を噤んでいるんだ。まあ攻められても、誰もいないから意味はないんだけれどさ」
本当に、渦だけに防御のすべてをかけるほど、絶対的自信をもっていたのだろうか。あの慎重で堅実派のジウが、そんな賭けのような防護策をよしとするのだろうか。
「テオン、お前はギルの元に身を寄せ、同時に父親の心配もしている。ギルやシバがジウと闘うために力をつけたがっているのを見て、正直なところはどうなんだ? お前はどちらにつく気だ?」
「父親から捨てられた僕に、お兄さん直球だね。僕は捨てられたことを快く思ってはいないし、人々を苦しませるジウの狂行を許せない。だけどそれ以上に、血で血を塗る闘いを子供達に見せたくはないんだ。
この国を担う子供達が血での争いを見て育てば、蒼陵はどうなる? そんな未来にしたいわけじゃない。きっと父様も。きれい事かもしれないけれど、血を流さずにいられる方法があるのなら、僕はその道を選びたい」
そのしっかりとした意見に、サクはユウナの毅然とした姿を思い出した。
テオンもまた、どんな境遇であれ、その血に流れる国の主としての力量があるのかもしれない。見た目は子供だが、虐げられて苦しんだ者達は、その分強くなる。
羨ましいことだと、サクは微笑んだ。